認知機能を維持・改善する可能性を探る

脳の働きについて勉強し、適切なケアを通して認知症を軽減できないか――。そんな介護職員たちの思いがきっかけとなって、社会福祉法人みささぎ会では06年度から4年間、「潤脳チャレンジ」と名づけた「認知症自立支援プロジェクト事業」に取り組んできました。大阪府先進的取り組みパイロット助成事業にも採択された同事業、今年1月には成果をまとめた中間報告書が発行されました。取り組み内容について、同プロジェクト推進室長の畑八重子さんに話を伺いました。

1回30分の活動に取り組む

この事業は、デイサービスに通う利用者を対象に、アクティビティに取り組むことによって認知機能が改善できないかを調べたもの。「よりよいケアによって、利用者の生活機能の向上につなげられないかと考えました」と畑さんは話します。

具体的には、学習や創作活動をしてもらった場合と、しなかった場合との差を見るというもの。大阪大学の精神医学教室の助言も得て、正確なデータを取るために、専従職員を配置。「デイサービスとの兼務は避けるようにしました」

対象者は6か所のデイサービスセンター(※1)に通う190名(※2)。要介護度は主に要支援1〜要介護3。専従職員1人に対し、固定した対象者3〜4人を割り当てました。

アクティビティは、学習的なものとしては、職員が開発した「お楽しみ家計簿」をつけたり、マス算術をしたり、小学校時代の教科書や民話を音読するなど。創作的なものとしては、職員が水彩画や切り絵・ペーパークラフトなどの見本を作り、好きなものに取り組んでもらうようにしました。

活動は1回30分間で週2回。学習活動から開始した場合6か月間それをずっと続け、その後6か月間は創作活動を続けるというクロスオーバー方式で、どちらの活動も体験。半年ごとに臨床心理士が認知機能検査を行いました。

笑顔が増えたが、介護負担の軽減にはつながらなかった

取り組みの結果、対象者の認知機能の維持・改善に効果があるようです。とくに75〜84歳で、良好な効果があったようです。「覚える(記銘)、継続して覚える(保持)、必要に応じて思い出す(再生・再認)という思考活動につながっているのではないでしょうか」

生活面ではコミュニケーションの改善した方が増えた様子。「笑顔が増え、デイサービスを楽しみにしているという感想も家族から寄せられています」

他方、「自立支援」の観点からは、得点は改善しても「自宅での生活改善や家族の介護負担の軽減にはつながらなかった」とも。見守りと手助けが必要で、逆に介護者の負担が増す場合もあるようです。

集中して関わることや日光浴も大切

「一番学んだのは私たち介護スタッフ。阪大の先生から脳の働きを教わったことから、声のかけ方など、適切な関わり方ができるようになりました」と畑さん。「衣服の着脱がうまくできない方でも、手本を図示したり急がせずにサポートすることで、できるようになることもある。簡単で明確な指示を繰り返していねいに行うことで、生活行為の維持・改善が可能になることも少なくありません」

小グループでのアクティビティを、短時間でも集中して継続的に提供する必要性も。「職員と利用者、利用者同士がなじみの関係を作ることにより、自己表現の機会も増える。家族負担を軽くしてあげるためだけの『預かり型サービス』では不十分。太陽の光を浴び、外気に触れることも効果がありそう。これからは朝の日光浴を取り入れたいと思っています」

みささぎ会では09年度から、特養利用者を対象とした取り組みに着手。認知症を理解するための介護職員用ガイドブックも作成。今後は、実践事例集を制作する予定です。

お楽しみ家計簿のお料理編記入用紙
職員の発案で作った「お楽しみ家計簿」の「お料理編」。メニューをきめ、食材や調味料を選んで記入用紙に書き込む。献立を思い出し話題が弾むことも。外出時の電車賃や入場料を計算する「おでかけ編」もある。
※1…みささぎ会(藤井寺・つどうホール)、そうび会(つるぎ荘・つるぎ荘やしも)、好老会(ひかり・第2ひかり)
※2…取り組みに同意し、認知機能検査の得点など一定の条件を満たした人。
(2010年3月)