全職員参加の虐待防止研修
試行錯誤しながら工夫重ねる

晋栄福祉会の取り組み

研修でグループワークに取り組む職員たち


全国の介護施設や療養型病院のうち、2012年以降の3年間に高齢者虐待があったのは少なくとも1500施設に上ることが、今年4月、全国抑制廃止研究会の調査で明らかになりました。「氷山の一角」でしょうが、人手不足や認知症利用者への対応の難しさもあるなか、虐待を起こさない組織づくりは施設に共通する課題と言えます。

こうしたなか、大阪府門真市・兵庫県宝塚市・奈良県生駒市に5つの特養などをもつ社会福祉法人晋栄福祉会では、正職・非常勤を問わず全職員を対象に、いかに意識づけを図るか、工夫を重ねながら虐待防止研修を実施しています。

意思疎通増した再発防止研修

きっかけは非常勤職員の不適切な行為

2003年、朝日新聞厚生文化事業団の助成を受け、電話相談や啓発研修などを実施する高齢者虐待防止センターを開設した晋栄福祉会。職員の発案で06年度には高齢者虐待防止ワーキングチームを発足。隔月で各施設の代表者が集まり情報交換を行うとともに、年1回、正職員を対象に、職員研修を実施していました。

しかし「自由参加だったので受講者が非常に少なかったときも。自分には関係ないことと思っている職員もいました」と笹尾高弘・宝塚ちどり副施設長は話します。

そうしたなか、11年秋、宝塚ちどりで、非常勤職員が利用者にふざけ半分の不適切な発言をしていたことが発覚。施設は虐待と判断し、自治体に自ら通報、家族に謝罪するとともに、再発防止委員会を立ち上げました。委員会の構成員は9名。施設長や職員の他、O-ネット事務局員も加わりました。

12年2月・4月・7月に委員会を開き、具体的な取り組み内容などを検討。並行して、常勤・非常勤、部署や職種を問わず、100名に上る全職員を対象に8回に分けて職員研修を実施しました。人権啓発ビデオを見る他、グループワークで虐待につながる恐れのあった事例を付箋に記入。別の付箋に踏みとどまった心情を書き込み、模造紙に貼って皆で共有しました。

「これまで非常勤職員が意見や感想を述べる機会はめったになかったが、発言を聞いて、他の職員の対応をしっかり見ているなと感じました。職員もグループワークは主体的に取り組めたようで“率直な気持ちを出し合えた”と好評でした」

グループワークで出てきた職員の声(2012年)
虐待ヒヤリハット事例
踏みとどまった心情・理由

エリアごとに研修を工夫

職員の関心引き寄せるアプローチを模索

結果を受け、ワーキングチーム主催の研修も、12年度以降、対象者を全職員に変更しました。その後、法人の開設施設が増加し、エリアも拡大。職員の経験年数等に地域差が出てきたこともあり、14年度からは大阪・兵庫・奈良の拠点ごとにワーキングチームを設け研修を実施しています。

兵庫のワーキングチームは、宝塚ちどり・中山ちどり・宝塚市立養護老人ホーム福寿荘(指定管理)で構成。特養やデイサービスなどの担当職員・居宅サービスのケアマネジャーら10名が毎月集まって、研修内容の検討や各施設の困難事例について意見交換を行っています。事例検討は、他施設や他部署の人の意見を聞くことで視点が広がり有益のようです。

昨年の研修では、虐待防止の基礎として高齢者虐待防止法の周知とグループワークでの事例検討、ストレス度チェックを行いました。全職員対象のため、変則勤務の関係で同じ内容を十数回、2〜3か月かけて実施します。

「研修を通し、職員も他部署の人と知り合えるので連携が深まった。ベテラン職員の利用者への対応が変わるなど変化もありました」。ワーキングチームの一員で宝塚ちどりユニットリーダーの池下恭平さんはこう話します。

若い職員や異業種からの転職組も多く、またEPAによるインドネシアの介護職員もいる兵庫エリア。「介護に詳しい者ばかりではない。トップダウンで済ませてしまうのではなく、自分のこととして吸収し主体的に取り組める研修にしないと…」と語るのは阪上知之・福寿荘荘長。今年度は子どもへの虐待を例に挙げ、高齢者への対応も根本は同じということに気づける研修を考えているそうです。「職員の受け取り方もさまざまなだけに、心に響く研修にするにはどうしたらよいか、試行錯誤を重ねています」

(2015年5月)