高齢者の暮らしを見つめて

10周年を記念し、
記念講演会&シンポジウムを開催

O-ネットでは、今春、設立10周年を迎えたことを記念して、6月27日(日)、『おひとりさまの老後』の著書・上野千鶴子東京大学大学院教授や「介護保険の産婆」と言われる元厚生省老健局長の堤修三大阪大学大学院教授らを講師に招き、10周年記念講演会&シンポジウムを大阪市北区の山西福祉記念会館で開きました。参加者は208名。講演会の前段にはオンブズマン活動を紹介するDVDを上映、催し終了後は元オンブズマンや施設関係者も交えて、祝賀会を行いました。

記念講演会

おひとりさまの老後――ケアされるということ

まだまだ少ないケアされる側の情報

記念講演会では、上野さんが将来ケアを受ける立場としてこれからの介護保険制度について次のように語りました。

介護保険ができたとき、ほっとしたものだ。私のような子供のない女も、家族以外の第三者の手を借りて老いてゆける。「介護保険は私のためにできた制度だ」と思った。

介護保険は世界に類のない制度だ。高齢化の著しい東アジア諸国をはじめ、世界中がこの保険の行方に注目している。過去に前例のない「歴史上未曽有」の経験だけに、介護サービス事業者も利用者も、この10年間、試行錯誤を続けてきた。

この分野で「新参者」の私は、利用者の立場からこの制度を10年間見てきた。そんな中で思うのが、ケアする側に比べ、ケアされる側の情報は極めて少ないということ。それだけに、O-ネットの市民オンブズマン活動は貴重であり、介護サービスに関する一種の「消費者教育」の場にもなっている。

高齢者はお金を払ってサービスを利用する消費者になったが、よいケアを受けるには賢い消費者でないといけない。オンブズマンの活動は利用者のサポートだけでなく、自分自身にとっても「よいケアの施設」を判断する「情報収集の場」だと思う。

在宅サービスの水準を「おひとりさま仕様」に

介護保険制度は介護の社会化を進めてきたが、高齢者一人が在宅介護を受けながら暮らしてけるほど十分なサービスにはなっていない。そのため施設志向が強まり、現在特養待機者は42万人に上っている。

02年の個室ユニット導入以来、施設では個室化が進められてきたが、首都圏など高齢者の多い地域では揺り戻しが起き、規制緩和と地方分権の名のもとに、多床室容認論が出てきている。しかし、それには強く「待った」をかけたい。

家族に頼れない「おひとりさま」が今後ますます増える中、単身者も安心して暮らせるように、在宅サービスの水準を「おひとりさま仕様」に上げてほしい。24時間充実した巡回介護と訪問看護と訪問診療があれば、在宅で暮らしていける。また、要介護認定を廃止して、ケアマネジャーに医師と同程度の専門性と「必要な介護」を決める裁量権を持たせたい。

いずれにしてもサービス水準を上げるには国民の負担増や、限度額を超える分には所得に応じた応能負担も必要だろう。リスクと負担の再配分を通じて安心して暮らせる社会を作り、社会連帯を高めたい。

上野千鶴子さん/専門は女性学・ジェンダー研究。近年高齢者の介護問題にも研究範囲を広げ、歯に衣着せぬ発言で人気を博している。75万部を超える『おひとりさまの老後』(法研)の他、著書に『当事者主権』(岩波書店)、『男おひとりさま道』(法研)など多数。


シンポジウム

介護保険10年の歩み

施設介護とオンブズマン活動

制度の誕生で市民の意識も変化

シンポジウムでは、岡本祐三O-ネット代表理事の司会のもと、10年の変化について4人のパネリストが所感を述べました。

堤修三さんは介護保険制度について総括。「給付抑制に力が傾き、介護の質向上がおろそかになった。とくに05年の制度見直しでは介護予防などを新たに打ち出し、制度が複雑に。“産婆”としては素直に育ってほしかったのに、予防給付などアクセサリーをいっぱいつけて、制度が不良少年っぽくなった」と笑わせました。

田和則さん(晋栄福祉会理事長)は、事業者の立場から「措置時代に比べ、サービスの選択や利用が大変自由にできるようになった。隔世の感がある」とコメント。「そんな中、サービスの質向上に欠かせないのがオンブズマンだ」と話しました。

川上正子さん(O-ネット理事)は、市民の立場から、社会と市民の意識の変化に言及。「街に介護事業者の送迎車が行き交う風景が日常化する中、介護を受けることが恥ずかしいことではなくなった。最近では“家族に気兼ねなく暮らしたい”と、高齢者自らが施設に入るケースもある」と語りました。また、中村久子さん(オンブズマン2期生)はオンブズマンの立場から、9年間の活動を通して「ケアが利用者主体へと変化してきた。ただ、利用者が車椅子に長時間座っている風景などは10年前と変わらない。もどかしく思う点だ」と述べました。

要介護認定とケアマネの裁量権

後半は上野さんも加わって要介護認定の要否について議論を展開しました。記念講演でも言及した上野さんの主張に対し、堤さんは「要介護認定はサービスをどれだけ提供するかを判断する物差し。相対的な位置関係を決めるものにすぎない。支給限度額が不十分なら、要介護度ごとの時間区分を変更するか、サービス利用例を見直して限度額をアップすればよいこと。肝心の問題はそこにある。要介護認定の撤廃は客観基準がなくなるため混乱を招くだけ」と反論。「経験を蓄積し、ケアマネジメントの独立した学問体系を作り上げることができればケアマネジャーに裁量権を委ねる時代がくるかもしれないが、今はその段階ではない」と話しました。また、「在宅看取りなどで医療費・介護費ともに高額となった場合、減免制度を作るべきだ」との上野さんの発言には、「負担の軽減を図る高額医療・高額介護合算療養費制度がすでに08年度からある」と指摘しました。

両者の議論を受けて司会の岡本代表は「介護の世界には、まだまだ客観的な基準がない。今後の発展を期待したい」と結びました。

田中美智子さん

パネリストの皆さん。左から堤修三大阪大学大学院教授、濱田和則晋栄福祉会理事長、川上正子O-ネット理事、中村久子O-ネット市民オンブズマン。