「介護保険の動向とこれからの施設のありかた」を考える

O-ネットでは3月15日(土)、大阪市中央区のドーンセンターで第43回O-ネットセミナーを開催しました。「介護保険の動向とこれからの施設のありかた」をテーマに、山田尋志・地域密着型総合ケアセンターきたおおじ代表が講演。昨年末、社会保障審議会介護保険分科会が意見書をまとめ、それをもとに厚労省が法案を作成して今年2月、通常国会に提出された介護保険の制度見直しについて説明がありました。参加者は介護事業の関係者やオンブズマンなど65名。賛否はあれ、国が描くこれからの介護の方向性を知るうえで一つの機会となりました。法案は6月中に成立する見込みです。

2025年に向け、市町村事業を強化

来年度からの実施が予定されている介護保険制度の一部見直しは、地域における医療・介護の連携を進め、医療制度改革とも一体となったもの。団塊の世代が75歳を迎える2025年を見据え、「地域包括ケア」実現に向けて市町村事業の強化を図ろうとしています。

12年度から始まった「地域包括ケアシステム」は、中学校区程度を一つのエリアに、医療・介護・住まい・予防・生活支援の各サービスを相互的・一体的に提供していこうというもの。身近に医療・介護の専門職がいて高齢者の暮らしを支えてくれるので、身体が不自由だったり軽度の認知症があったりしても、最期まで住み慣れた地域で暮らすことも不可能ではない――そんなシステムを構築していこうというプランです。ただ、現在このシステムを機能させている地域はモデル地域でも見られないため、市民にとってイメージしにくいものであることは否めません。

ところで、国がこうしたプランを打ち出してきた背景には、@25年には高齢者人口は3600万人、うち独居や夫婦のみの世帯は2000万人に上る、A認知症高齢者は現時点でも軽度を含めると860万人に上り、65歳以上の4人に1人に及んでいる、といった事情が挙げられます。

そうした状況を踏まえ、見直し案では、加速化する超高齢社会に向けて@医療・介護の連携の推進、A認知症施策の強化、B生活支援や介護予防体制の促進に重点的に取り組んでいく姿勢を明確にしました。「今のところ、国のプランは現実とはかなりかけ離れたものだけに、今後どこまで進むか危惧もある。しかし要介護高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるようシステムの構築に本腰を入れて取り組みだすのは間違いない。来年の制度見直しは、これからの介護サービスのあり方を大きく変える節目になるとみています」と山田代表は話します。

介護職を増やすには質の確保が不可欠

今回の見直し案では、給付抑制と財源確保を図るため、@特養入居者を要介護3以上に限定する、A一定以上の所得者(年収280万円以上)の自己負担割合を1割から2割に上げる、B補足給付に資産要件を加味し、施設サービスの居住費・食費の低所得者対策を厳格化する、C介護予防給付の通所介護と訪問介護を市町村の地域支援事業に移行する、などの項目も盛り込まれています。

そうしたなかで最も反対意見が目立つのが、Cの要支援認定者に対する「介護保険外し」です。介護保険ではサービスの水準について全国一律のルールがあるのに対し、市町村の裁量に任される地域支援事業になると、対象者やサービス内容が抑制される恐れも多々あります。法案では3年間の猶予期間を設けて完全移行へとつなげていく考えですが、高いハードルが予想されます。

その他、見直し案には15年度から予定されていた介護福祉士の資格取得方法の一元化を、1年延期することも盛り込まれました。来年度以降、養成校で学んだ人も国家試験を受けることになっていましたが「資格取得のハードルが上がると、介護人材がさらに不足する」という事業関係者の声があるため延期に。状況によってはさらに延期される可能性があり、16年度以降の実施も不確かです。

「介護も医療並みの専門職として社会に認知されるようになるには、第1に食事・入浴・排泄など基本となるケアをしっかり身に付け、その専門性の高さに誇りを持てる人材の育成が必要です。第2に認知症介護や予防介護など介護概念を整理し、それに関わる専門職を育て、介護職全体の底上げを図っていくことも求められる。人材難を理由に無資格・未経験の人ばかり採用し、教育もできないまま仕事をさせていたのでは、量は足りても質は低下する一方。現場は負のスパイラルに陥るばかりです」

社会福祉法人に求められる経営の透明性と社会貢献

山田さんは社会福祉法人をめぐる動きについても言及しました。

昨年、社会保障制度改革国民会議などでも取り上げられたように、福祉ニーズが多様化・複雑化しているなか、経営の合理化・近代化や、財務諸表の公表など透明性の確保が社会福祉法人に求められるようになってきています。社会福祉法人は法人税・固定資産税が非課税であるだけに、それにふさわしい社会貢献を行うことが不可欠。介護事業を行う法人に社会貢献を法令で義務付けるよう求める動きも顕著になっています。

「こうした流れのなかで社会福祉法人を見る社会の目は厳しくなっていくはず。本来、社会福祉法人が担っていたセーフティネットとしての役割を一層進めるとともに、新たな取り組みも欠かせません」

山田さんが運営する社会福祉法人端山園では7つの法人が連携して共同事業を推進し、1法人では進めにくい課題に挑戦。組織の強化・人材育成・ケアの質向上について互いに共有し、研修や会議を通して法人間のレベルアップを図っています。「介護保険の開始以降、介護サービスを受けることは特殊なことではなく、多くの高齢者が利用する当たり前≠フサービスになった。しっかりと人材を育成し、多くの受け手が満足できるようなサービスの標準型をつくる。これがこれからの課題であり、非営利の社会福祉法人こそがリードしていかねばならないことだと考えています」

山田尋志さん

1981年から社会福祉法人健光園で勤務。健光園園長、高齢者福祉総合施設ももやま園長を務め、2012年3月に退職。12年8月、地域密着型総合ケアセンターきたおおじを開設する。全国社会福祉施設経営者協議会介護保険事業委員会委員、同志社大学・立命館大学非常勤講師などとしても活躍。