好評のターミナルケア研修
昨年に続き開催

O-ネットでは8月26日、大阪市中央区のドーンセンターで介護職員研修『“介護施設ならでは”のターミナルケアを進めるために』を開きました。好評のため昨年11月に続く開講で、午前は福森潔寿光園施設長の基調講演、午後は実践報告とパネルディスカッションを実施。受講者73人と関係者18人の計91人が参加。立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。この紙面では実践報告の内容を紹介します。

■園田苑
小規模多機能と特養の事例を紹介

「しっかりした味付けになるフォカッチャの生地を使用。腸を刺激しないように、脂肪分の少ないボンレスハム、繊維の少ないほうれん草を。チーズは口腔内に残り誤嚥の原因になりやすいのでクリームチーズととろけるチーズを合わせ牛乳でかたさを調整した」と工夫を話す高橋由希子さん。

阪神共同福祉会の園田苑(尼崎市)からは小規模多機能の高橋由希子さんと特養の家門孝光さんが発表しました。

高橋さんは病院で管理栄養士として働いてきた経験を活かし、93歳・要介護4の利用者の看取りで「ピザを食べたい」という望みに対応した事例を紹介しました。

「利用者は大腸がんによる腸閉塞と脳梗塞による嚥下障害があるため、普通のピザは無理。食材をつぶしてゼリー状にして冷やし、その上に温かいチーズをのせることで、おいしさと安全性の両方を満たすことができた。人生の最後にその人が食べたいものを提供することによって、生命の底力をもう一度ふり絞ってもらえるような気がする」と高橋さん。実践報告ではそのピザを配り、参加者全員が試食する機会もありました。

特養の家門さんは、夫の終末を前に気持ちが揺らぎ、意思疎通も難しい夫人に寄り添いながら、施設としてこまめに対話を重ねていった事例を報告しました。

「夫人は連日の付添で疲れが大きく、精神的混乱もあったため夕方帰宅してもらったが、夫はその日の深夜に亡くなった。呼吸が荒くなった段階で連絡していれば…と思わないでもなかったが、夫の苦しそうな様子を見るとまた混乱されるかもしれなかった。結果的に夫人は死に目に立ち会えなかったが、“家門さんに看取ってもらってよかった”と言われたときはほっとした。看取りは施設だけではできないもの。本人だけでなく、家族との関わりも日頃から密にし、家族にも心の準備をしていってもらうことが欠かせません」

■ライフ・イン京都
看取りの体制や記録の書式を工夫

ライフ・イン京都の取り組みを発表する北浦里紗さん。「終末期に向けての要望書」には、延命治療や経口摂取が困難になった場合の対応のほか、最期を迎える場所、終末期の過ごし方、好きな音楽・食べ物・お気に入りの写真など、具体的な質問項目が盛り込まれている。

介護付き有料老人ホームライフ・イン京都(京都市)の取り組みは北浦里紗さんが発表しました。今年30周年を迎える同施設の看取り件数は192件。09年以降、毎年の看取り件数は死亡者の約8割を占めています。10年にはホーム長・施設ケアマネ・管理栄養士・生活支援相談員・介護主任・看護主任らで構成するターミナルケア委員会を立ち上げ、看取りの体制づくりや職員研修などを行っています。

施設では、延命治療や経口摂取が困難になった場合の対応などを問う「終末期に向けての要望書」を作成し、入居者と家族が相談のうえで記入後、提出してもらっています。要望書の回答はいつでも変更が可能。「看取りだけでなく急変時の対応にも役立っている」と北浦さんは話します。

どの人が看取り期にあるのかを全職員で共有する「ターミナルステージ表」も作成。委員会で該当者をリストアップし、看取り期の段階と状態、入居者のフロアを明示。家族への説明・同意の有無も色分けによって示した分かりやすい一覧表です。

「できることミーティング」も担当フロアで開催。看取り期に入った人がその人らしい終末期を送れるように「職員ができること」「その方ができること」「その方から学んだこと」を職員たちが話し合って用紙に記入し委員会で報告します。「その人を改めてより深く知る機会になっています」

一方、死後には「振り返りミーティング」を実施。介護・看護職員が感じた思いを話し合って用紙にまとめ、委員会で報告。職員のグリーフケアや今後の看取りに向かい合うよい機会になっています。

北浦さんは右足が末梢血管完全閉塞で壊死した人(102歳・要介護5)の看取りの事例も紹介。お酒とお風呂が好きだったことから、梅酒ゼリーを提供したり、患部がお湯につからないよう工夫して寝位浴に入ってもらったり…。医療職との緊密な連携がいる難度の高いケースでしたが「最期まで寄り添い支えることができた」と話しました。

■グループホームみやび
看取り期もフロアで生活を…

グループホームみやび(羽曳野市)の取り組みについては桝野貴至さんと福士学さんが紹介しました。03年に開設したみやびでは、05年より看取りを開始。これまでに13人を看取ってきました。

家族への対応で重要なのは「看取りの説明と病院との違い、入居者の状態変化など連絡事項の徹底、そして死生観の共有」と桝野さん。一方、職員には「取り組み方法の共有化と死への教育が必要」と話します。

「体調に配慮しつつ、できるだけ今までどおりの生活を続けてもらう」のも、みやびの特徴です。「居室で寝たきりにするのではなく、フロアや寂しさを感じさせない環境の中で過ごしてもらう。本人の意思があればトイレ介助を行い、体調が良ければ軽い外出やレクリエーションにも参加してもらっています」

みやびでは、入居者が看取り期に入ると、毎回職員の勉強会を実施。「看取り介護サービス計画書」や「ターミナルケアカンファレンスシート」で対応の周知を図ります。また、死後はカンファレンスを実施し、できたこと、できなかったこと、職員が感じたこと、遺族の満足度、今後の検討課題を話し合い、シートにまとめることで次につなげています。

「仲の良かった入居者にはお別れの機会も設けている。看取りを経験し課題を乗り越えていくことで看取りの質も上がっていくことを実感している」と福士さんも話します。

どの発表者も、「介護職員・医師・看護師・家族らが協力して行うのが介護施設での看取り」「特別のものではなく、日々の生活の延長線上にある」「それだけに普段から施設と入居者・家族とのきめ細かな関係づくりを心がけ、その人らしい最期のために、何ができるかを考えて対応することが大切」と語ったのが印象的でした。


職員研修&オンブズマン月例会

車椅子と座位姿勢について知識を深める

7月23日、ドーンセンターで研修『利用者のQOLを高めるために車椅子のフィッティングとシーティングを考える』を開催しました。森下弘幸近鉄スマイル福祉用具研究所所長を講師に、介護職員など施設関係者、オンブズマン、養成講座受講生の計62人が車椅子と座位姿勢について知識を深めました。

欧米に比べ、椅子を使う生活文化がまだまだ浅い我が国。「日本の介護施設では個室であってもベッド中心の生活。椅子も1脚ぐらいしか置いていない。欧米では居室にもさまざまな椅子が置かれている。くつろぐとき、作業するときなど、目的に応じて椅子に座り替えている」と森下さん。

椅子では、座面の角度が2.5p変わるだけでも座位姿勢は激変し、上半身の運動能力や視野、食べ物を噛む力も変わります。例えば2.5p座面が後方に傾斜すると受動的な座位になりリラックスできます。反対に2.5p座面が前方に傾斜すると能動的な座位になり作業がしやすくなります。「車椅子を単に“移動のための手段”ととらえるのではなく、“座る”ことにもっと着目してほしい。そして“座って何をするのか”という目的も視野に入れて座位姿勢や車椅子を考えていくことが大切」と森下さんは結びました。