虐待が起きない施設にするために

「プロ意識をもって介護にあたることも大切」と話す池田直樹弁護士。

3月29日(木)、O-ネットでは特別講演会「虐待が起きない施設にするために」を大阪市中央区のドーンセンターで開きました。この講演会は、2月〜3月に相次いで報道された神戸や和歌山の高齢者施設で起きた虐待事件を受けて急きょ開催したもの。講師は高齢者虐待防止法についての共著もある池田直樹弁護士。岡本祐三O-ネット代表理事が最後にコメントし、講演会を締めくくりました。7社から報道関係者も訪れ、会員、一般市民、施設関係者など140名が話に耳を傾けました。

神戸の介護付有料老人ホームで職員が入居の女性を平手打ちするなどの虐待をしていたことが2月に報道された。顔に暴行を受けたような痕があることを不審に思った家族がビデオカメラを設置して隠し撮りを行い、証拠として突き付けたことで発覚した。「隠し撮り」という点でインパクトは大きい。こうした方法がよいとは思わないが、裏返せば、そこに至るまで施設との信頼関係は破綻していたということ。内部調査を行うなど、施設がなぜもっと迅速に対応し、再発防止ができなかったのかと思う。

虐待報道が流れると、その施設の信頼は地に落ちる。介護業界にとっては隠し録画や隠し録音波及への危惧もあるだろうが、家族の不安を払拭するような介護を行わない限り、溝は深まるばかりだ。

厚労省によると、10年度に施設で虐待の事実が認められた件数は96件。被害者は「女性で80歳以上、要介護3以上」、加害者は「40歳未満、介護職員」が多かったという。こうしたデータを参考に、虐待が起きやすい組み合わせを極力避けるなど、施設はリスク管理を行うべきだろう。

一方で、通報しやすい環境づくりも重要だ。わが国では「通報」というと、仲間を裏切る後ろめたさが付きまとう。また、たとえ通報しても「虐待とは言えない」と判断されることもあるだろう。しかし、利用者の命と安全を守るには、思い過ごしか否かも含め、見極める機会は早いに越したことはない。また、虐待とは言えないものの、不適切介護がある場合、早めに検討し見直すことは施設にとって結果的にはプラスになるだろう。

いずれにしても、虐待防止は内部だけで解決するよりも、外部の第三者にも協力を仰ぎ、一緒に問題解決に取り組んでいくことが大切だ。


オンブズマン活動が虐待の抑止力に

O-ネット代表理事 岡本 祐三

神戸の虐待事件で、家族がカメラを設置したということは、以前から利用者による「発信行為」があったことは明らか。施設かそれにきちんと対応しなかったことが最大の問題と思う。

ところで、高齢者の尊厳は随分向上したと思う。人口動態統計の年齢別自殺率の推移を見ると、戦前の高齢者の自殺率は現在の2倍以上と高く、貧困と病苦が主要因であった。しかし高度経済成長期以降、自殺率は急速に低下。年金や医療保険などの社会保障が生活をサポートするようになったからだ。そしてようやく高齢者の尊厳を社会で論ずることができるようになった。この事実を、むしろポジティブな課題として喜びたい。

とはいえ我々の心中には高齢者への蔑視感情があるのも事実だ。例えばうば捨て伝説がなぜ連綿と語り継がれてきたのか。心の片隅に共感する何かがあるからだろう。

一般に意識を変革するには、言葉だけではなく、状況そのものを変えていくことが不可欠だ。虐待は密室で起こる。ならば密室化を防ぐことが先決だ。また虐待事例を集め、共通する項目を探し出すことも対策を考えるうえで有効だろう。

ともあれ、定期的に市民が介護現場に入るO-ネットの市民オンブズマン活動が虐待の抑止力となることは間違いない。