介護ロボットの活用と課題

歩行支援用ロボットを利用して廊下を歩く利用者の、
感動的な動画も交えて 講演する宮本隆史施設長

人手不足が続く介護現場の負担軽減につなげようと介護ロボットの導入が進みつつあります。国は普及のために2015年度の補正予算で52億円を計上。当初1事業所300万円を上限に補助する予定でしたが、申請額が大幅に上回ったため約90万円に引き下げ、全国約5500の事業所を16年度に支援しました。こうしたなか東京の社会福祉法人善光会では13年に「介護ロボット研究室」を介護職員や技術系職員で立ち上げ、介護ロボットの企画・開発・導入を進めています。そこで、今回のO-ネットセミナーでは同法人の特養・フロース東糀谷施設長で「研究室」の一員でもある宮本隆史さんを招き、介護する側の立場から「介護ロボットの活用と課題」をテーマに話を伺いました。参加者はオンブズマン・大学教員・医療関係者など76名。施設関係者の参加が少ないのが残念でした。

50〜60種類の機器を試用難しい直接介護の機械化

特養で半自動化に着手

宮本隆史さん 1985年生まれ。介護福祉士。善光会に就職し、介護職員、ユニットリーダー、葛飾区の特養施設長などを経て現職。

少子高齢社会が進むなか、介護財源と介護職員の不足は大きな課題です。05年に誕生した善光会では、介護財源を無駄にしない「効率的な経営」、個々の利用者の自己実現を叶える「あきらめない介護」、業界を変革する「先導者」をビジョンに事業を展開しています。そして「良い介護を、人手とお金をかけずに提供する」という命題のもと、介護ロボットをうまく活用することで介護職員の負担を軽減し、利用者の快適性の向上と自立支援を図ろうと模索しています。

これまでに50〜60種類の機器を試してきました。国で定義されている介護ロボットとは、情報感知(センサー系)、判断(知能・制御系)、動作(駆動系)の3つの要素技術をもつ知能化した機械システムのこと。しかし当法人では移動用リフトや家電の掃除ロボットなども介護ロボットの範疇に含めています。そして法人が運営する2つの特養の特定ユニットをモデルケースとして、さまざまな機器を導入。「介護業務時間の25%削減」を目標に取り組んでいます。法人には技術系職員も数十人いて、ロボットの自社開発や数値分析を担っています。

介護士に求められる柔軟性

介護業務にかかる時間を分析した結果、移乗・誘導・見守り・排泄介助などは発生回数が多く、優先順位も高かったことから、こうした分野をとくに念頭に置いて機器の試用を行いました。今のところ、介護業務時間の削減率は12・3%ほどでロボット導入の難しさも感じています。

とくに、移乗介助用機器は利用者に直接触れるだけに、個人差や日々の体調変化に留意が必要。「目利き」が求められます。一方、見守りセンサーなど利用者には触れない「間接系介護機器」は、個々の利用者の状態に左右されないだけに比較的容易に活用できます。ただし見守りセンサーはWiFiなどのインフラ整備も必要で、現状では費用がかさみます。

また、機器の操作に慣れるまでには、これまで以上の労力と時間が介護職員にかかります。そうした負荷をどう乗り越えていくのかも課題です。そこを打開していくためにも、これからの介護職員には介護のスキルや知識に加え、機器の操作や業務に対する「柔軟性」と、技術や機器を組み合わせて適切な業務の流れを作り出す「創造性」の両方が求められます。

機器を使う抵抗感や不安感は利用者自身よりも職員の方が強いように思います。でも、よい機器ができて、職員に時間的余裕が生まれれば、利用者とのコミュニケーションも深められる。機器の上手な活用で利用者満足度を向上させ、成功事例を増やしていくことが、介護に対する新しい考え方や倫理観・文化を醸成することにもなると考えます。

成功体験を増やし続けたい

まだまだ課題の多い介護ロボットですが、介護する立場から意見を言い、改良を重ねながら未来をつくっていくことは、楽しいプロセスでもあります。

例えば歩くことを諦めていた利用者が歩行支援用ロボットを装着して歩けるようになったケースがあります。機器をつけることで利用者自身のモチベーションが上がり、結果として自立支援につながっていった。目の前の利用者が何か一つでも前に進めた時の喜びは何ものにも代えがたいほど大きく、感動的です。

そんな成功体験を積み重ね、みんなで共有する。それが介護職員のやりがいにもつながっていくと思うのです。

業務の効率化図りやすい、間接介護系機器

現場で役立っている機器には次のようなものがあります。

まず挙げたいのが、ベッドからの起き上がりなどを感知する見守りセンサーです。利用者の状態を携帯画面に赤外光の輝点とアラームで知らせます。これによって居室での転倒・転落などを迅速に察知することが可能に。事故防止に役立つほか、巡回回数が減り、夜勤職員の負担軽減につながりました。施設では夜間巡回が義務付けられていますが、次期介護保険の見直しではセンサーによる巡回・見守りの代用が認められるかもしれません。

入浴ではバスリフトの導入が効果的でした。機器を個人浴槽に設置。電動でシート部分が昇降し、湯船につかる動作を支援。座り替えや介助がしやすいため、以前はリフト浴だった利用者の半数以上で個浴が可能になりました。利用者の満足度を高めるとともに、リフト浴に比べ所要時間を1人平均5分ほど短縮できました。

テレビ画面の映像に従ってクイズを出したり、体操の進行役を務めたりするコミュニケーションロボットも役立っています。レクリエーションの内容が随時更新されるので利用者も飽きない。職員が2〜3人必要だったところを、ロボットと職員1人で対応できるようになりました。ロボットに見守り機能が付けばさらに便利になると思います。

家庭用の掃除ロボットもけっこう使えます。居室の清掃に職員が10分かかっていたところを、床掃除をロボットに任せることで拭き掃除の5分だけに短縮できる。月間・年間にすると、かなりの業務時間の効率化につながります。広いスペースに対応できる施設用が開発されれば、より使い勝手がよくなるでしょう。

他方、自動排泄処理装置はおむつ交換よりも時間がかかり、効率的とは言えませんでした。おむつパッドにセンサーを内蔵し、パッドにつながった管から排泄物が自動的に吸収されますが、機器の洗浄に手間がかかる。日中は車椅子で過ごす人には利用しにくいのも難点です。便失禁が過度にあるケースなら夜間に限り対応可というところです。

介護職員の腰に装着して移乗介助の際の腰痛防止を図るロボットも、装着に時間がかかるのが難点です。現場での使用を進めていますが、装着に手間取り、トイレ介助に間にあわないことも。職員の理解を進めるには操作手順をより簡便なものにする必要があります。